『女人念仏風土記』

     序

 

   龍口恭子
     〔元龍谷大学非常勤講師〕

 『平家物語』「潅頂巻」(かんじょうのまき) の「大原御幸」(おおはらごこう)のある件りが目に留まった。


  御寝所(ぎょしんじょ)とおぼしくて、竹の御棹(さお)に麻の御衣、紙の御衾(ふすま)なんどかけられたり。

  壇ノ浦で平家一門悉く敗れ、自身も入水(じゅすい)の果てに捕らえられた平徳子は、今は出家し、建礼門院として洛北大原に暮らしている。春なお浅い山里にその庵を探し当てた後白河院は、庵の内、荘厳(しょうごん)せられた仏間の奥の間に女院の三衣を見出す。栄華も地位も、愛しい家族も全て失った今。念仏の中に生きる意味を見出した今。庵の中の竹竿に掛かった衣の光景こそ、この女人の澄み切 った境地を語っている。
  人の不幸は様々であるが、幸せは概ね同型とよく言われる。しかし念仏に生きる人の歓びは実に多様な幸せのあり方を示している。極楽の聖衆(しょうじゅ)はみな等しく紫金色に輝くというが、優れて個性的でなければなるまい。でなければ、 「独去独来」には意味がなくなる。念仏に生きて輝く個性こそ、阿弥陀如来のこの世におけるはたらきである。
  仏教教理を論ずる書は多く、自己の宗教的体験を語る本はさらに多い。しかし受け身で無力ときれて来た女性が、ただ念仏を歓ぶ姿を文学や記録の中に見出した時、妙に懐かしい。
  折に触れて書き留めて来たものを、大阪堀江の萬福寺御住職石田克彦師が『道標』に連載させてくださった。『道標』は先代御住職が戦後まもなく発刊され、自坊の御門徒のみならず全国的に読まれて来た寺報であったが、現住職様は内容をより拡充させて発信し続けておられる。
  『道標』で取り上げた二十二人の女人の話を一冊の本にまとめるよう御提案くださったのは京都探究社である。深謝の他ない。
  なお題字は山口県岩国市の教蓮寺前住職藤谷光信師の手になることを記して謝意に 代えたい。
  本書の題名の「風土記」は大袈裟で面映ゆいが、各人の念仏にその土地土地の伝統が息づいており、それらが日本全国に拡がり信心の伝播がみられるところに由来する。

 

 

 

平成28年年頭挨拶

 

  新年明けましておめでとうございます。早朝よりようこそお参り下さいました。 旧年中は大変お世話になりました。どうぞ、本年もよろしくお願い申し上げます。

 年末年始は、贈りものをしたり、されたり、年賀状を交わしたり、人と人との心が行き交う時期です。 

 年をとると、何ごとにも手間がかかるようになりますので、それをおっくうに感じることもありますが、手間がかかることが、返って、じっくりと人と人とのつながりをかみしめる良い機会となっているのかも知れません。
人が「生きる」とは、「生かされている」ことであると、年を重ねるごとに感じるようになりました。
先ほどお配りした中川静村さんの「生きる」という詩を、ここでご一緒に読んでみましょう。これは「仏教讃歌」として歌われています。

生かされて 生きてきた
生かされて 生きている
生かされて 生きていこうと
手を合わす 南無阿弥陀仏      
このままの わがいのち 

このままの わがこころ
このままに たのみまいらせ            
ひたすらに 生きなん今日も     
あなかしこ みほとけと            
あなかしこ このわれと                         
むすばるる このとうとさに                       
なみだぐむ いのちの不思議                       
この仏教讃歌を今年一年、繰り返し歌い、味わってみたいと思います。

 この詩の「生かされて」とは、単にさまざまの「人のおかげで」ということではありません。「阿弥陀さまのおかげで」という宗教的な意味があります。
自分中心にしか生きられない私が、仏への道を歩ませていただけるのは、阿弥陀さまのおかげです。それをここで「生かされて」と言っているのです。      
このことについては、これから折々に、この詩に添いながらお話ししてみたいと思います。
今日お渡ししましたこのカードは、勤行聖典にでも挟んで、法座の度に持ってきて下さい。後ほどCDをかけますので、ご一緒に歌いましょう。
今年は、若院の結婚式、そして、まだ予算が出ていませんので正式に発表はしていませんが、懸案の築二百十年を経て老朽化が進む本堂・山門の耐震化を含む大改修工事が、年内に始まるかも知れません。役員さんをはじめ、ご門徒の皆さまにまたご協力をお願いすることになります。その都度、情報伝達し、ご相談しながら進めるつもりです。どうぞ、宜しくお願い申し上げます。
本当に、新年早々にようこそおまいり下さいました。最後に、皆様の今年一年のご健勝とご多幸を念じて、ご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。